「ヒ」と「シ」の区別のできない江戸っ子にとっては「タイシャクタイショウヒョウ」などというのはすんなりとは発音できないような代物です。
この名称は、資産のある左側を「借方」、負債と純資産のある右側を「貸方」と称し、左右の合計がバランスしているところからきている、と説明されています(実は、この説明も後ほど述べるように怪しいのですが)。 さすれば、なぜ、資産の側か借方で、負債の側か貸方なのでしょうか。
普通の語感からすれば逆のように感じられるのではないでしょうか。 この言葉が使われるようになったのには歴史的な経緯があります。
資産の勘定科目の1つに売掛金があることは勉強してきたとおりです。 左側に売掛金を書くのは、もともとイタリアの商人が帳簿付けをする際、掛売りをした相手の名前とその金額を左側に記入していたのが始まりといわれています。
掛売りをした相手は、いわば自分から金を借りている人、つまり借り方です。 そこで左側を「借方」ということになったというわけです。
また、右側には買掛金を書きます。 これは、同じように、自分が掛けで仕入れた相手方の名前と金額を右側に記入したことからきています。
自分が掛買いした相手はいわば自分にお金を貸している人つまり貸し方です。 そこで右側は「貸方」となったというわけです。
しかし、他方で次のような用語が貸借対照表にはあります。 貸付金や借入金という勘定科目です。
これまでにも出てきたように貸付金というのは資産で、借入金というのは負債です。 ところで、貸付金、借入金というとき、貸し付ける、借り入れるの主語は会社です。

一方、上に述べたように、借方、貸方というとき、借りる、貸すの主語は相手方です。 貸付金、借入金というときの主語と、借方、貸方というときの主語が入れ替わっているのです。
こんな用語が同じ貸借対照表の中に混在しているのです。 このために、借方に貸付金があり、貸方に借入金があるという奇妙な姿になっているわけです。
これは、美しい財務諸表体系のなかの極めて美しくない一点です。 しかも、簿記の話はたいていは「借方」「貸方」から始められるのです。
こんなことのために、本来はスッキリしている簿記の世界が、その入り口のところでわけの分からない世界だという印象を与えることになっているのではないでしょうか。 だとしたら、罪作りな借方、貸方です。
このことから、借方、貸方という呼称をやめてしまい、左側、右側という呼び方にした方がよいと主張するむきもあり、私も賛成です。

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